連携講座「池袋学」| リアル池袋論—国際都市としての池袋—

泉屋 咲月 さん(文学研究科日本文学専攻 博士課程後期課程2年次)

2015/12/17

トピックス

OVERVIEW

東京芸術劇場×立教大学 連携講座「池袋学」<秋季>

日時 2015年10月31日(土)14:00~16:00
会場 池袋キャンパス 太刀川記念館3階 多目的ホール
講演者 鈴木 庸介(本学兼任講師、㈱TOKYOSTAY代表取締役、元NHK池袋担当記者)
 

講演会レポート

2015年度池袋学の秋季3回目は、元NHK記者で現在はTOKYO STAY代表の鈴木庸介氏を講師に迎え、池袋に居住、滞在する外国人の多様化をテーマに開講されました。TOKYO STAYは不動産会社のひとつで、外国人向けシェアハウスや語学学習バー「BarSPEAKEASY」、語学学校「大塚外語学院」を運営する企業です。本講座では、ビジネスと経済学の二つの視点から、外国人との関わりの中での「リアル池袋」—池袋の実態と可能性に迫るとともに、外国人に対する新たな見方を提供していただきました。

経済学において、ある一定期間に行われた経済活動や取引の量を「フロー」、ある一時点に存在する資産、負債、資本の量を「ストック」といいます。本講座では、日本国内の外国人のうち、一カ月以内の滞在者をフロー、一カ月以上の滞在者をストックとして進められました。フローとストックから何がみえてくるのでしょうか。

まず、観光客を中心としたフローとしての外国人にはどのような側面があるのかについて、お話しいただきました。現在、日本では人口減少にともなう国内消費活動の衰退が懸念されており、こうした日本国内の消費の減少を外国人の消費で補うことが期待されています。たとえば、国土交通省を中心とした外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が掲げる訪日外国人の年間目標数は、こうした期待に基づいて算出されているそうです。
日本を訪れる外国人旅行者の数は年々増加しており、外国人の訪日形態は団体旅行から個人旅行へとシフトしつつあります。団体ツアー参加者の日本での消費が最終的に旅行会社に還元されてしまうのに対し、個人旅行者の消費は日本の消費活動に直接寄与します。日本国内の消費活動の衰退を補うという視点からみると、個人旅行者の増加に展望が見いだせるのです。

個人旅行の増加によって訪日外国人の滞在形態の多様化が進んでいます。近年、「Airbnb」をはじめとする「民泊」が新たなビジネスモデルとしての大きな注目を集めています。民泊とは、広く民家に宿泊することを指し、物件を有料で提供するもの以外にも、無償で外国人旅行者を自宅に宿泊させたり、農業や家事を手伝うことの対価として食事と宿泊を提供したりするなど、民泊の形態も多様化が進んでいます。空き家率が高い豊島区にとって民泊は、地域経済への貢献だけでなく、池袋という〈まち〉を持続させていく上での大きな可能性を孕んでいます。

しかし、民泊はこのような大きな可能性を内包している一方で、ビジネスとしては明確に合法とはいえません。最近では、国家戦略特区の認定や地方自治体による条例の施行といった措置もようやく始まりましたが、特区以外の地域において民泊をどう扱うべきかという問題や納税に関する問題、物件のまた貸しなど、多くの課題が未解決のまま残されています。

こうした状況にあって、観光地としての池袋に何が求められているのかを考えることは、ビジネスチャンスにつながるというだけでなく、池袋の存続を考えていくうえでもきわめて重要です。フローとしての外国人をみた場合、彼らの多様な需要にどう応えていくかというところに、観光地としての池袋の可能性があることがわかります。
一方、ストックとしての池袋の外国人を見る場合、どのようなことが見えてくるのでしょうか。鈴木氏は、〈住居〉、〈仕事〉、〈出会い〉の三要素を外国人街成立の条件であるとします。池袋には、中華料理店などでの〈仕事〉、東池袋を中心とした安価な〈住居〉、中国語の無料新聞によって提供される情報にもとづく〈出会い〉がありました。そのため、池袋は中国人をはじめとしたアジア系の外国人が多く滞在する〈まち〉として知られてきました。

しかし、2012年に東京国際フランス学園が滝野川へ移転して以降、池袋、大塚、滝野川を中心とした北東京にフランス人社会が確立されつつあります。これまで「アジア系中心」と言われていた池袋は、多様な人種の集う国際都市へと変貌を遂げようとしているのです。2020年の東京オリンピックまでに外国人の移住がさらに加速するであろうことを考慮すると、池袋を中心とした北東京は経済圏として大きくなっていくことはほぼ確実です。そして、この新たなフランス人社会が外国人街として成立していくためには、〈住居〉、〈仕事〉、〈出会い〉の三条件が満たされる必要があります。TOKYO STAYをはじめ大手不動産企業が〈住居〉の供給にのりだしていますが、〈仕事〉と〈出会い〉の供給はいまだ十分とはいえない状況です。

池袋を中心とした北東京ベルト地帯をひとつの経済圏と捉えると、その圏内における外国人を取り巻く経済は、労働者数の増加率が高く、一人当たりの所得水準が低いという「発展途上」の国によくみられる状態です。鈴木氏は、この状況に経済学者・ソローの成長モデルを当てはめ、外国人特有の技術を生かすなど付加価値の高い〈仕事〉を供給することによって、一人当たりの所得水準を上げ、「発展途上」の状態から脱することを提案します。そのためには、それぞれの外国人が持つ固有の技術を活用できる事業を増やすなど、外国人にとって住みやすい〈まち〉にしていく必要があり、そのためにはまず、観光事業が重視されます。フローとストックどちらの側面から考えても、民泊の合法化や新しい観光地の創出、受け入れ環境の整備といった観光事業の拡充は、池袋にとって喫緊の課題であるといえるのです。その点から考えると、公衆無線LANの普及が諸外国に比べ不十分であることは観光地として致命的な欠点であり、池袋に限らず日本全体が取り組むべき課題です。
池袋学では、これまで十数回にわたり、池袋の歴史や文化、観光、環境といったさまざまな視点から池袋の存続、すなわち池袋の〈未来〉を考えてきました。池袋学が過去に扱ったテーマにおいても、多様化への適応が一つの共通課題として示唆されていたように思います。あらゆる事象が多様化していく現代において、私たちは常にそうした多様化に適応していくことを求められています。池袋における外国人の多様化もその一端として捉えることができ、その多様化に私たちが適応できるかどうかに池袋の存続もかかっているのではないでしょうか。

池袋の持つ多様な側面を外国人との相互関係の中でどのように深めていくか、という課題もまた池袋の可能性として捉えられます。そしてそこには、新たな文化創造というさらなる可能性も秘められているといえるでしょう。池袋の多面性にこそ、多様化への適応という問題に対する展望—池袋らしい〈未来〉のかたちがあると思います。本講座では、池袋の外国人に対する新たな見方や彼らと共存していく必要性が示されただけでなく、池袋学の意義があらためて確認されました。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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