2014/05/28 (WED)プレスリリース

二酸化チタン表面における陽電子消滅誘起イオン脱離の観測に成功 ~陽電子を用いた固体最表面の改質に道~

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

本研究は、立教大学理学部物理学科平山孝人教授、立花隆行助教(元東京理科大学助教)、東京理科大学理学部第二部物理学科長嶋泰之教授のグループによる共同研究です。
本成果は米国の科学雑誌「Physical Review B: Rapid Communications」 89巻オンライン版5月27日付、現地時間(5月27日付、日本時間)に掲載されました。
<論文名>
“Positron-annihilation-induced ion desorption from TiO2(110)”(日本語名:二酸化チタン(110)表面からの陽電子消滅誘起イオン脱離)

本研究成果のポイント

・二酸化チタン表面での陽電子の対消滅に伴って脱離する酸素正イオンの観測に成功
・陽電子を用いた固体最表面の改質に道を拓いた

1.概 要

東京理科大学(東理大)、立教大学(立教大)の研究グループ(代表、東理大 理学部第二部物理学科 長嶋泰之教授)は、数10 eV※1、あるいはそれより低いエネルギーの陽電子※2を二酸化チタン表面に入射すると、表面上から酸素の正イオン(O+)が脱離※3する現象を発見しました。この結果は、陽電子が固体表面原子の内殻電子※4と対消滅※5して内殻に空孔が生じ、これが緩和するときに不安定な電荷分布が一時的にできるために、酸素原子が周辺の原子との結合を切断して正イオンとなって放出することを表しています。固体に侵入した陽電子は特定の原子種周辺に集まるという特徴があるため、この現象を利用すれば、固体表面に存在する原子種を選択的に取り除くことが可能になります。さらに、全くエネルギーを持たない陽電子であっても内殻電子と対消滅することが可能です。このため、固体内部に侵入しないような十分低いエネルギーで陽電子を入射することにより、固体内部を損傷することなく試料最表面を構成している原子のみをイオンとして脱離させることができます。この手法は、固体最表面の改質に道を拓くことになります。

2.背景

固体表面に電子線や光を入射して内殻電子を励起すると、内殻に空孔が生じます。内殻に空孔を持つ状態はエネルギー的に不安定なため、原子・分子内で大きな電荷の移動が起こります。この過程で、試料表面の原子がイオン化するとともに周辺の原子との結合を切断するのに十分な運動エネルギーを得ることができるので、表面から正イオンが脱離することがあります。この様な現象は1978年に米国のM. L. KnotekとP. J. Feibelmanによって観測されたため、 Knotek-Feibelman機構として知られています。ただし脱離が起こるためには、入射電子や光子が内殻電子の励起に必要な高いエネルギーを持たなければならないので、ある程度固体内部に侵入せざるを得ません。

3.研究内容と成果

東理大と立教大のグループは、数eVから数10eVのエネルギーを持つ陽電子ビームを二酸化チタン(110)面に入射すると、表面上からO+イオンが脱離することを明らかにしました。
固体に陽電子を入射すると、陽電子はエネルギーを失った後に、表面から飛び出したり、固体中の電子と束縛してポジトロニウムと呼ばれる状態を形成して飛び出したりすることがあります。また一部の陽電子は、固体表面付近の電子と対消滅してγ線になります。その中には、原子核と強く束縛された内殻電子と対消滅するものもあります。陽電子が内殻電子と対消滅すると、内殻に空孔が生じます。東理大と立教大のグループが検出に成功したのは、この空孔の生成によって脱離したO+イオンです。陽電子と内殻電子との対消滅過程によって固体表面の粒子が脱離することを明らかにしたのは、本研究が初めてです。O+イオンは、陽電子の入射エネルギーをいくら低くしても脱離するという結果が得られています。このことは、陽電子が固体中に全く侵入しないような低いエネルギーでもイオン脱離が可能であることを示しており、固体最表面を選択的に改質する手法として使えることを意味しています。

4.今後への期待

この手法を利用すれば、固体最表面のみからイオンを脱離させることが可能となります。このため、試料最表面の改質が可能となり、新たな機能性材料の生成などに道が拓けると期待されます。

1.eV

2.陽電子

3.脱離

4.内殻電子

5.対消滅

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